東京地方裁判所 昭和38年(行)6号 判決 1964年5月28日
原告
滝内正太郎
被告福島県知事
木村守江
被告
社会保険審査会
右代表者委員長
川上和吉
(右指定代理人四名)
主文
原告の請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は、原告の負担とする。
事実
原告は、「被告福島県知事は、原告に対し、原告が昭和二四年九月一日から昭和三四年七月一日まで、厚生年金保険の被保険者であつたことを確認しなければならない。被告社会保険審査会が昭和三七年六月三〇日付をもつて、原告の再審査の請求を棄却した裁判を取り消す。訴訟費用は、被告らの負担とする。」との判決を求め、その請求原因及び被告の主張に対する反駁として、次のとおり述べた。
一、原告は、昭和二三年五月江名町水難救護会に就職し、昭和三三年一月末日付で同会を退職し、同年二月一日江名町機船底曳網漁業協同組合に就職し、昭和三五年七月右組合を退職したものである。
二、江名町水難救護会は、船員をもつて構成し、海難事故より船舶と人命を救助することを目的とする団体であるが、独立の団体ではなく、もとは江名町漁業会の付属機関で、その後右漁業会が漁種別に分離し、江名町機船底曳網漁業協同組合が昭和二四年九月一日設立されてからは、同組合の付属機関となつたものである。すなわち、江名町水難救護会の会長は、代々江名町機船底曳網漁業協同組合の組合長が就任し、しかも右救護会が独立の団体であるとすれば、同会の前記組織よりして、船員保険法第九条にいう船舶所有者の組織する団体に当らないことは明白であるのに、同救護会は、昭和二四年二月厚生省告示第二三号により、右法条にいう船主団体に指定され、以来昭和三三年二月一五日まで、同会において船員保険の業務を取り扱つて来たのであるから、同会は江名町機船底曳網漁業協同組合(同組合が船員保険法第九条にいう船主団体に当ることは明白である)の付属機関にすぎないものというべく、原告は、江名町水難救護会において、江名町機船底曳網漁業協同組合の業務に属すべき船員保険の事務に、同組合長の指揮監督の下に従事して来たものであり、同組合と使用、従属の関係にあつたものであるから、厚生年金保険法第六条第一項の適用事業所である同組合の発足した昭和二四年九月一日をもつて、厚生年金保険の被保険者の資格を取得したものである。
三、そこで、原告は、昭和三五年八月一六日付をもつて、被告福島県知事に対し、原告が昭和二四年九月一日に厚生年金保険の被保険者資格を取得したことの確認を求めたところ、同知事は同日付でこれを却下したので、福島県社会保険審査官に審査の請求をしたが、同年一〇月二八日付でこれを棄却され、さらに、被告社会保険審査会に再審査の請求をしたが、同審査会は、昭和三七年六月三〇日付で、原告は、昭和三四年一月二日農林漁業団体職員共済組合法の適用を受けて同組合の組合員となつたものであるから、同法附則第四条により、原告の厚生年金保険の被保険者であつた期間は、昭和三四年一月一日以後は、厚生年金保険法の適用上厚生年金保険の被保険者でなかつたものとみなされることとなり、厚生年金保険法により、その資格に関する確認をし、またはその適否を判断する余地がなくなつたとの理由で、原告の再審査の請求を棄却する裁決をし、同年七月二八日その旨原告に通知した。
四、しかし、原告は、前記のとおり、昭和二四年九月一日以来江名町機船底曳網漁業協同組合と使用、従属の関係にあつたものであるから、被告福島県知事に対し同日より江名町水難救護会が厚生年金保険法第六条第二項により任意包括適用事業所となつた昭和三一年七月二日に至るまでの期間、厚生年金保険の被保険者であつたことを確認すべきことを求め、被告社会保険審査会が、原告につき厚生年金保険の被保険者資格の取得につき判断する余地がないとして、実体的判断をしなかつたことは違法であるから、その裁決の取消しを求めるため、本訴に及ぶ次第である。
五、被告らは、本訴は出訴期間を徒過し、不適法であると主張するが、昭和三七年七月二八日原告に送達された被告社会保険審査会の裁決の通知書には、裁決に不服がある場合には、同書到達後六カ月以内に裁判所に出訴することができる旨付記されており、原告の本訴は、同書到達後六カ月以内に提起されているから、不適法ではない。
原告は、以上のとおり主張し、証拠<省略>
被告ら指定代理人は、本案前の答弁として、「本訴をいずれも却下する。訴訟費用は、原告の負担とする。」との判決を求め、その理由として、次のとおり述べた。
一、原告の被告福島県知事に対する訴は、三権分立の建前上許されず、不適法である。
二、仮りに、被告福島県知事に対する訴が、三権分立の原則に反するものでないとしても、昭和三四年一月一日農林漁業団体職員共済組合法の施行に伴い、当時江名町機船底曳網漁業協同組合に雇用されていた原告は、同年農林漁業団体職員共済組合の組合員となると同時に、厚生年金保険法第一二条第一号ロに該当し、同保険の被保険者資格を喪失するに至つたものであるから、本訴請求をする法律上の利益を有しないものといわねばならない。
もつとも、農林漁業団体職員共済組合法附則第四条によれば、従前の厚生年金保険の被保険者期間が、右組合の組合員期間に合算されることとなつてはいるが、右附則第四条後段によれば、組合員となつた者の厚生年金保険の被保険者であつた期間は、組合の成立の日以後における厚生年金保険法の適用については厚生年金保険の被保険者でなかつたものとみなすと定められており、組合成立後は、被告福島県知事は、右附則第四条の適用を受ける者に関する限り、組合成立前に厚生年金保険の被保険者の資格を取得していたものについても、その確認をすることができず、その点の疑義は、組合と組合員との間で決定さるべきものであるから、被告福島県知事に対し、厚生年金保険の被保険者資格の確認を求める訴は、法律上の利益を有しないものである。
三、被告審査会の本件裁決は、昭和三七年七月二八日原告に通知されているから、原告の本訴は、行政事件訴訟法附則第七条但書に定める三カ月の期間を経過して提起されたものであつて、いずれも不適法である。
本案につき、被告ら指定代理人は、主文同旨の判決を求め、原告の請求原因第一項の事実を認め、同第二項の事実中江名町機船底曳網漁業協同組合が昭和二四年九月一日設立されたこと、江名町水難救護会が船員をもつて組織され、海難事故の救助を目的とする団体であること、同救護会が船員保険法第九条の船主団体に指定され、船員保険の業務を取り扱つていたこと、原告が同会にあつて船員保険の業務に従事していたこと、江名町機船底曳網漁業協同組合が発足以来厚生年金保険法第六条第一項の適用事業所に該当するものであつたこと、以上の事実を認め、江名町水難救護会が右協同組合の付属機関であること、原告が同組合と使用、従属の関係にあつたことを否認し、同第三項の事実を認め、同第四項の事実中江名町水難救護会が昭和三一年七月二日任意包括適用事業所となつたことを認め、その余を争い、同第五項中、被告社会保険審査会の裁決通知書に、原告主張の記載のあつたことを認めると答弁し、次のとおり、主張した。
一、原告は、江名町水難救護会、江名町機船底曳網漁業協同組合の付属機関であり、原告は同組合の業務に従事し、同組合との間に使用、従属の関係にあつたから、厚生年金保険法上同組合に使用されるものとみるべきであると主張するが、両団体はそれぞれ固有の目的と業務を有する独立の団体であつて、原告は、江名町水難救護会に雇用され、同会から給与の支払を受けていたのであるから、厚生年金保険法上も、同会に使用される者と認められる。
二、原告は、被告社会保険審査会の裁決は、実体的判断をしておらず、違法であると主張するが、原告が農林漁業団体職員共済組合の組合員となつた後は、前記被告の本案前の主張第二項で述べたとおり厚生年金保険法上の被保険者資格の有無を争う利益を有しなかつたものであるから、右裁決は正当であつて、なんら違法ではない。
被告ら指定代理人は、以上のとおり述べ、証拠<省略>
理由
第一、本訴の適否について、
一、三権分立に反するとの点について。
被告福島県知事が原告の同被告に対する訴をもつて三権分立の原則に反するとする理由は十分明らかでないが、当裁判所の憶測するところによれば、裁判所が行政庁に給付を命ずること自体が判断作用としての司法の本質と矛盾するとの理由に基づくものであるか、または、権力分立制の下では、行政権に対する司法権の姿勢は原則として事後審査に止まるべきであるから、行政事件訴訟の基本形態は抗告訴訟であるべきであり、従つて処分として出訴の対象とすべきものがあるかぎりこれをとらえて出訴すべきものとすることが権力分立制の趣旨にそうゆえんであり、原告の被告福島県知事に対する本件訴のように処分として出訴し得べきもの(同知事の却下処分)が存在するにかかわらず、ことさらにこれをさしおいて給付を請求することは、権力分立制に由来する抗告訴訟中心主義の建前にそわないものであるから不適法である。との趣であるか、いずれかであると思われる。
しかし、原告が、まず、被告福島県知事に対し、原告が本訴で求めているような確認の請求をし、却下処分を受け、さらに福島県社会保険審査官、社会保険審査会に対し順次所定の不服申立を経由していることは当事者間に争いのないところであり、社会保険審査会の棄却裁判に対する出訴につき、出訴期間の遵守において欠けるところがないことは後に判断するとおりである。従つて、原告は、福島県知事を被告としてその却下処分の取消しを求める訴を適法に提起し得る地位にあるわけであり、原告から右の訴が提起されたとすれば、裁判所がこの訴訟において、被告に原告の求めるような確認をすべき義務があるかどうかを判断し得ること、そして裁判所が被告にこの義務があるものとして却下処分を取り消す判決をした場合に、被告がこの判決理由に拘束されて、確認の義務を負うに至るものであること、しかもこのことが三権分立の原則に反するものでないこと、これらのことがらについては異論をみないところである。さらに、当裁判所の見解によれば、右の場合に、原告は却下処分の取消しの訴に合せて、被告に原告の求める確認をなすべき義務があることの宣言を求める訴訟または確認すべきことを求める給付の訴訟を提起することも許されるものと解される。けだし、却下処分取消訴訟の判決理由中の判断に行政庁が拘束されて行政行為をなすべき義務を負うに至ることが三権分立の原則に反するものでないとされる以上、判決主文に表現された義務宣言ないし給付命令に行政庁が拘束されて行政行為をすべき義務を負うに至つたとしても、行政庁が裁判所の判断に拘束されて行政行為をすべき義務を負うに至るという実質においてはなんらの相違がなく、これによつて行政権が司法作用によつて控制を受ける度合いが実質的にいつそう大きくなるとは考えられないからである。もつとも、裁判所が判決で行政庁に給付を命ずることは、裁判所が行政監督権を行使したに等しく、判断作用としての司法の限界を起えるものであるとの論がないではないが、判決主文における給付命令は、行政庁に一定の作為義務があることの判断に基づき、この判断の結果を実現すべきことを要求する意思表示にほかならず、判断作用と無関連な単純な監督命令とはその性質を異にするものであることは明らかであるから、主文の表現方式が給付命令の形式をとつたということだけで、直ちに、裁判所が行政庁に対して行政監督権を行使した結果になるというのはあたらないものというべきである。
以上に判断したとおり、原告は、被告福島県知事の却下処分の取消訴訟或いはこれに合せて被告に原告の求める確認をすべき義務があることの宣言を求める訴訟ないし右確認をすべきことを求める給付訴訟を適法に提起し得る地位にあつたわけである。
そこで、当面の問題は、かような訴を提起し得る地位にあつた原告が却下処分を訴訟の対象としてとらえないで給付請求のみを訴訟物として訴を提起することが、権力分立の原則上なにかさしさわりがあるかどうかということである。そこで考えてみるに、原告の確認請求に対し却下処分があつた後にこの却下処分の取消しを求めるという方式で訴が提起された場合においても、実質的に訴訟の対象となるのは、被告に原告の求めるような確認をすべき義務があるかどうかの問題にほかならないから、かような訴訟の対象について、所轄行政庁が第一次的判断を下す事前の段階において裁判所の判断を求めることが一般的に許されると解することについては三権分立の原則上、疑問があるとしても、すでにこの点につき行政庁の第一次的判断が下された後に出訴するについて確認義務の存否それ自体を訴訟の対象としてとらえることが許されないと解すべき本質的な理由は存在しないものといわねばならない。ただ、現行法は、却下処分に対し出訴するについては、所定の行政上の不服手段を経由し、かつ出訴期間を遵守しなければならないこととしているので、直接、確認義務の存否それ自体を訴訟の対象としてとらえる方式により訴を提起することによつて、却下処分をとらえて出訴する場合について現行法が課している出訴の要件を潜脱することができるものとすれば、かような方式による出訴を是認することは、現行法の建前を乱すものとして疑問とせざるをえないが、かような方式による出訴についても、却下処分に対する出訴につき現行法の定める前記の要件に従うべきものと解するならば、右の疑問は、もはや、存在しないこととなる。ところが、前述のように、本件の原告は、却下処分に対する出訴につき法律の定めるすべての出訴要件を具備しているのであるから、原告の本訴請求を許されないものと解すべき理由はない(すなわち本訴は、行政事件訴訟法第三条第一項の抗告訴訟の一種として適法なものと解される。)わけであつてかような訴を是認することが三権分立の原則上さしさわりがあるとするような考え方は、実質的、合理的な理由のない、形式的な三権分立論によつて、行政救済の途をいたずらに狭き門とするものとして、当裁判所のとらないところである。
二、訴の利益がないとの点について。
被告福島県知事は、原告は、昭和三四年一月二日農林漁業団体職員共済組合の組合員となつたため、厚生年金保険の被保険者の資格を喪失し、かつ、農林漁業団体職員共済組合法附則第四条によれば、組合員となつた者の厚生年金保険の被保険者であつた期間は、組合の成立の日以後は、厚生年金保険法の適用上、厚生年金保険の被保険者でなかつたものとみなすと規定されているから、被告福島県知事は、原告に対し厚生年金保険の被保険者資格の取得につき確認することができなくなつたのであつて、右確認をなすべきことを求める本訴は、法律上利益を欠くと主張する。
しかし、右農林漁業団体職員共済組合法附則第四条の規定は、同法の施行により、従来厚生年金保険の被保険者であつたものが、農林漁業団体職員共済組合の組合員となり、そのため厚生年金保険法第一二条第一号ロによつて、厚生年金保険の被保険者資格を喪失することとなるが、右資格の得喪の結果、年金等の給付につき、被保険者に不利益を生ずることのないよう厚生年金保険の被保険者であつた期間を前記組合の組合員であつた期間とみなすと同時に、二重の給付の生ずることがないよう、右組合員とみなされる期間については、厚生年金保険の被保険者でなかつたものとみなすことを定めるに止まり、これによつて、従来厚生年金保険の被保険者であつたという事実そのものが変動を受けるものではなく、また厚生年金保険と右共済組合の事務管掌者が異なり、法が厚生年金保険の被保険者資格の確認等に関する事項を都道府県知事の専管事務としていることを考えあわせれば、前記附則第四条にいう厚生年金保険の被保険者であつた期間とは、厚生年金保険法第一八条により、都道府県知事がその旨確認した期間を指すものと解するのが相当であつて、これにつき都道府県知事の確認を得ていない場合には、前記共済組合の組合員となつた後においても、なおその確認を経べきものと解するのが相当であるから、被告福島県知事は、原告に対し厚生年金保険の被保険者資格につき確認をなし得るのであつて、この点の被告福島県知事の主張も理由がない。
三、出訴期間も徒過しているとの点について。
被告らは、原告の本訴は、いずれも出訴期間経過後に提起されたものであるから不適法であると主張する。
被告社会保険審査会が原告の再審査の請求を棄却した裁決が、昭和三七年七月二八日原告に到達したことについては、当事者間に争いのないところ、行政事件訴訟法附則第七条第一項によれば、同法が施行された昭和三七年一〇月一日において、行政事件訴訟特例法第五条第一項の出訴期間が進行しているものについては、原則として、処分等を知つた日から行政事件訴訟特例法に定められた六カ月の出訴期間に服すべきものであるが、行政事件訴訟法施行後三カ月経過後に、右六カ月の期間が到来するものの出訴期間は、行政事件訴訟法施行の日から三カ月に出訴期間が短縮される旨規定されており、従つて、本訴の出訴期間も、行政事件訴訟特例法によれば、前記裁決書が原告に到達した昭和三七年七月二八日から六カ月後の昭和三八年一月二八日までであつたものが、行政事件訴訟法の右附則により、昭和三七年一二月末日までに短縮されることとなつたものであるから、本件記録上明らかなとおり、昭和三八年一月二四日に提起された本訴は、一応出訴期間経過後に提起されたものといわねばならない。
しかし、被告社会保険審査会の前記裁決の通知書に、右裁決に不服のある場合は、右裁決到達後六ケ月以内に裁判所に出訴することができる旨付記されていたことは当事者間に争いのないところ、当事行政事件訴訟法は、すでに制定、公布され、その施行期日も定まつていて、出訴期間が前記のとおり短縮されることとなることが判明していたのに、被告社会保険審査会において、漫然行政事件訴訟法の出訴期間をもつて教示したのであるから、これを信頼して、右通知書記載の六カ月以内に提起した本訴は、民事訴訟第一五九条の追完事由を備えるものとして、なお出訴期間の点において欠けるところはないと解するのが相当である。
以上の次第で、被告らの本案前の主張は、いずれも理由がない。
第二、本案について。
一、被告福島県知事に対する請求について。
当事者間に争いのない事実と(証拠―省略)によれば、江名町水難救護会は、江名町において機船底曳網漁業及びかつお、まぐろ漁業に従事する船員を構成員とし、海難事故における人命及び船舶等の救助を目的とする団体で、会の運営資金は、これら漁業の船主の提出する負担金によつて運用され、会の役員は、江名町機船底曳網漁業協同組合及び江名町所在の福島県鰹鮪漁業協同組合の各役員が主として兼務し、会長には、機船底曳網漁業に従事する船舶の数が多かつたところから、代々江名町機船底曳網漁業協同組合の組合長が就任することとなつており、会の事務所も同協同組合と同一建物内にあつたが、同会は、組織及び目的において、江名町機船底曳網漁業協同組合とは別個、独立団体であつて、その会計においても、これと明確に区別されて運用されていたところ、原告は、昭和二三年五月同会に事務員として雇用され、以来昭和三三年一月末日同会を退職するまで、同会より給与の支給を受けていたものであると認められ、右認定を覆すに足る証拠はない。
以上の事実によれば、原告主張のように江名町水難救護会を江名町機船底曳網漁業協同組合の付属機関にすぎないものとし、原告を、厚生年金保険法上、右協同組合に使用されていたものと認めることはできず、従つて、右協同組合が設立され、同組合が厚生年金保険法第六条第一項の適用事業所となつた昭和二四年九月一日をもつて原告が同組合に使用されるものとして、厚生年金保険の被保険者資格を取得したものと解することはできない。
もつとも、当事者間に争いのない事実に<証拠―省略>よれば、江名町水難救護会は、昭和二四年厚生省告示第二三号をもつて、船員保険法第九条第一項の規定に基づき、船舶所有者の組織する団体として指定をうけ、以来昭和三三年二月一五日まで機船底曳網漁業に従事する船員の船員保険の事務を同会において処理し、原告が主としてこれに従事していたことが認められるところ、前認定のとおり同会は、船員保険法第九条第一項にいう船舶所有者の組織する団体には当らず、かかる団体としては、江名町機船底曳網漁業協同組合がこれに相当し、従つて、船員保険の事務は本来同組合において処理すべきものであつたのであるから、現に右事務に従事した原告が、同組合に属すべき事務に従事したものとして、厚生年金保険法上同組合に使用されているわけではないが、前顕各証拠(但し、原告本人尋問の結果については、後記措信しない部分を除く。)によれば、江名町水難救護会が船員保険法第九条第一項の船主団体の指定を受けるに至つたのは、従来、同会において、船員のため厚生年金保険の請求その他の面倒をみていた関係から、船員保険の適用を受けることとなつた後においても、船員のためその事務を処理しようとする趣旨に出たもので、当時は、船員保険の事務が本来江名町機船底曳網漁業協同組合で処理すべきものとは考えられておらず、右事務も江名町水難救護会の事務として処理されていたものであつて、原告が船員保険の事務処理上の疑点につき、これをただした前記組合の役員は同時に右救護会の役員をも兼ねるものであり、同人等が右事務を同組合に属するものと確知し、ことさら同組合の役員の資格において、原告に応答したものではないこと、以上の事実が認められ、右認定に反する原告本人尋問の結果は措信し難く、他に右認定を覆すに足る証拠はなく、これらの事実に前認定の江名町水難救護会の組織、会計、原告の雇用関係等を総合勘案すれば、たんに原告が同会において従事した事務内容が法律上江名町機船底曳網漁業協同組合において処理すべき性質のものであつたということだけで、原告が同組合に使用されていたものということはできない。
よつて、原告が昭和二四年九月一日江名町機船底曳網漁業協同組合に使用されることとなつたものとする被告福島県知事に対する請求は理由がない。
二、被告社会保険審査会に対する請求について、
被告社会保険審査会が、原告の再審査の請求に対し、原告は昭和三四年一月二日農林漁業団体職員共済組合員となつたから、農林漁業団体職員共済組合法附則第四条により、原告が厚生年金保険の被保険者であつた期間は、厚生年金保険法の適用上、同保険の被保険者でなかつたものとみなされることとなり、厚生年金保険法により、その資格に関する確認をし、またその適否を判断する余地がなくなつたとの理由で、これを棄却したことは、当事者間に争いのないところ、前記第一本訴の適否についての第二項で判断したとおり、右農林漁業団体職員共済組合法附則第四条にいう厚生年金保険の被保険者であつた期間とは、その旨都道府県知事によつて確認を受けた期間を指すものと解すべきであり、従つて未だその確認を受けていない期間については、厚生年金保険法によりその確認をし、その適否を判断すべきものであるから、これと異なる見解の下に、原告の再審査の請求につき、実体について何ら判断することなく、これを棄却した被告社会保険審査会の裁決に違法であるといわねばならない。
しかし、すでに判断したとおり、原告主張のように昭和二四年九月一日に遡つて原告の厚生年金保険の被保険者資格を認める余地はなく、仮りに被告社会保険審査会の裁決を取り消しても、同被告としては、本判決の判断するところに従い原告の再審査の請求を棄却する外ないわけであるから、原告としても右裁決の取消しを得て新たな裁決を求める利益はなく、被告においても、もはや、これを取り消す理由はないものと解するのが相当である。
よつて、この点の原告の請求も、結局理由がない。
第三 結論
以上の次第で、原告の請求は、いずれも理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用につき、民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。(裁判長裁判官白石健二 裁判官浜秀和 町田顕)